改善されない介護人材不足!2025年までに介護士100万人は実現可能か?

この連載ではこれまで、課題を抱える日本の高齢者医療・介護に対して「あるべき姿」を提言してきたが、もう一つ日本には特異性があり、これを打破する議論が求められている。それが「人材鎖国」の問題である。

高齢者の増加と共に医療や介護の必要者が増えると同時に、日本全体の人口は減少していく。当然のことながら医療、介護に関わる人材がこのまままでは相当深刻な不足状況に陥らざるを得ない。そこで、今回は介護人材に焦点を絞って考察を進める。結果として「移民国家」への大きな政策転換が必至とならざるを得ないと思う。

2025年までに介護職100万人増員へ!注目の外国人雇用が抱える課題

団塊世代が75歳に達する2025年には、今よりも看護職で50万人、介護職で100万人の増員が必要と政府は見ている。2012年度の介護職の総数は約168万人で、2025年には249万人の就業が欠かせない。増加分が100万人と言うわけだ。その対策にやっと視野が向いてきたが、まだ政策として確固とした肉付けがされていない。

打開策として議論され出したのが外国人への門戸開放策である。政府は6月24日にアベノミクスの第3の矢として骨太の方針と新成長戦略を決め、外国人の大幅な雇用拡大策を盛り込んだ。

働く人の減少が著しく、危機感を抱いた政府が既存の規制を自ら破って外国人に助けを求める新施策である。何しろ15~64歳の働く世代が12年ぶりに8000万人を割り込んでしまった。前年比116万5000人減。さいたま市とほぼ同じ人口が消えたことになる。

そこで、女性と高齢者、それに外国人に働く現場に出て来てもらおうと安倍政権は考えた。なかでも注目されるのは、外国人雇用の特殊制度である「技能実習制度」に介護職を加えたことだ。

技能実習制度は、発展途上国から来日して技能や知識を身に付け、帰国後に国の発展に寄与してもらおうという趣旨で1993年に始めた。日本は外国人の単純労働者を受け入れていない。だが、この制度は技術移転であり、人材育成の国際貢献という名目を掲げて原則論の隙を突いた。本音は産業界の要望に応えた人手不足の一時的解消策なのは明白だ。

最長滞在期間を3年と期限付きにして、抵抗の多い「移民」論議も回避した。漁船漁業、養殖業、畜産、パン製造、建築大工、金属プレス加工、溶接、婦人子ども服製造など86職種の現場で約15万人が働いている。途中から他職種に移行できない。介護は「日本の技術が他国より優れているとは言えない」という理由で外されている。

それが一転、積極的に拡大することになった。新たな職種として林業と自動車整備、店舗運営管理、惣菜製造それに介護を検討すべきとした。受け入れ人数枠を増やし、滞在期間も最長3年から5年に延ばす。五輪需要を見込んで建設業はすでに5~6年に延ばす措置がとられ、造船業も適用されている。さらに帰国しても再来日して2年程度の再実習ができるようにする。

いずれも法相の私的懇談会「出入国管理政策懇談会」の分科会が報告書としてまとめたもので、6月10日に谷垣法相に提出した。

だが、同制度は問題も抱える。

「最低賃金で酷使され、残業代が支払われない」という批判が絶えない。旅券や預金通帳を事業者が強制的に取り上げたり、労働基準法を守らない違法労働や法外な家賃――。過酷な労働現場は人権侵害とも指摘もされている。暴行事件で警察沙汰になることもあり問題が山積みである。

米国国務省からも6月に「技能実習制度には強制労働の現場がある」と批判された。同報告は世界の188ヵ国・地域の売春や強制労働のなどの実態について調べた2014年版の報告書に記載された。不適切な事例を挙げるとともに、「最低基準を十分に満たしていないが、改善に努めている」という評価だ。

そこへ、外国人が参入できる別ルートが突如出現し、脚光を浴びている。経済連携協定(EPA)に基づくインドネシアとフィリピン、ベトナムからの受け入れだ。来日3年後に介護福祉士を受験する決まりである。だが、今年の3月の試験ではインドネシアとフィリピンの両国併せて78人しか合格しなかった。日本人を含めた合格率は65%だが、外国人は36%と低い。合格すると日本で働き続けられる。始まってから3年の全合格者は242人と少ない。

この外国人参入の“別ルート”はもともと、主に日本の農産物の関税率を下げずに農家を守るため、小泉政権がやむなく受け入れて始まったものだ。厚労省にとっては想定外の「突然の意外な命令」であったといえよう。決して長期的な戦略に基づく介護職の人手不足対策ではない。多くのマスコミが人手不足を補う施策であるかのように報じているのは間違いである。

もう一つ、外国人活用が思わぬ方向で実現しようとしている。安倍政権の目玉である働く女性の支援策として、家庭での家事支援のために外国人の助けを得ようというものだ。

家事を支える人がいれば女性の社会進出が一挙に増えるはずという考えから生まれた。掃除や洗濯、育児などの家事や家族介護を理由に就職できない女性が220万人いるとの試算を政府は公表し、その根拠を明らかにした。国家戦略特区のうち、関西圏(大阪,兵庫、京都の3府県)での導入が検討されている。

ただ認可保育園と違って公的な制度が確立していないため、国や自治体からの助成金の投入は難しい。外国人に家事を頼めるのはかなりの富裕層に限られそうだ。

政府はこうして各種の方針を打ち出したが、法務省や厚労省が具体的な制度にのせるのはまだ先だ。

外国人労働者はたった1.1%!海外との比較でわかる「鎖国」状態

外国人への門戸開放策は国際的視野でみると当然の流れだろう。外国人労働者は約72万人に止まり、労働力人口比で1.1%に過ぎない。米国は16%、ドイツは9.4%、英国は7.6%と大差がついている。総人口比でも米国やドイツは13%台、英国とフランスは10%台なのに日本は207万人で1.7%。入管法や難民の拒絶策でも明らかなように、日本は人については「鎖国」状態に近い。

欧州を旅行するとヒジャブやブルカ、ニカブなどイスラム教徒独特の衣装をまとう人を繁華街でよく見かける。他国からの流入に寛容なオランダでは、モロッコやスリナム(南米の旧オランダ領)など国や宗教ごとに区分けされたデイサービスの部屋が並ぶ高齢者施設がある。外国人の受け入れに日本ほど消極的な先進国はない。

「職が奪われ、賃金が下方にシフトし日本人の給与も下がってしまう」「社会生活の考え方が違うので同じ仕事をするのは難しい」「日常生活でも習慣の違いで近隣トラブルが増える」との声が支配的だ。新成長戦略を議論する経済財政諮問会議で、担当大臣が「日本語や文化を十分理解していない外国人が関わるのは問題」と発言してしまう。多くの人の考え方を率直に言葉にしたのだろう。

そこで、技能実習制度を再度点検してみる。大きな問題は、在留期間を限定した雇用第一主義であることだ。長期間滞在していれば地域住民とならざるを得ない。単なる労働力の「拝借」では済まないことになる。家庭を持ち、生活環境が整った暮らしを望むのは当然のこと。子どもが誕生すれば学校に通い、病気になれば病院で受診、近所付き合いも深まる。普通の日本人と変わらない暮らしに近づいていく。

もはや、移民との違いは紙一重だろう。移民についての定義は確立していないが、国連では「通常の居住地以外の国に移り、少なくとも1年間住む人」とかつて示したことがある。技能実習生は明らかに移民と言わざるを得ない。

国際貢献という本来の理念とは乖離する。日本人と同じ生活者としての対応を迫られる。「移民とは全く違う」と政府は唱え続けるが、人数が増えれば移民としての処遇は避けられないだろう。「労働力」としてではなく「生活者」と認めるには移民の制度化が是非とも必要だろう。

日系のブラジル国籍者だけでも20万人近くが現実に居住している。バブル期の人手不足が追い風となって急増、リーマンショックで帰国者があったがそれでもこれだけの人が暮らしている。技能実習制度の外国人がその後継になる可能性は高い。

広く世界を見渡せば、異なる国や民族の居住者への対応が進みつつある。カナダと豪州では1970年代に「多文化主義」の概念をとり入れ、定着させている。多文化主義とは、異なる文化を持つそれぞれの集団やその文化をどれも対等に扱わねばならないという考え方だ。その結果、先住民や少数民族、移民の権利が確認され出した。英国やスウェーデン、フランスなどでも多文化主義が次々導入されてきている。

中でも豪州の政策転換は日本でもお手本となりそうだ。と言うのは、それまでは「白豪主義」を掲げて英国人を中心にした白人国家を主張してきた。元々英国からの囚人が送り込まれた英連邦の一員であり、19世紀中ごろにゴールドラッシュで中国系移民が急増、その後インド系や日系が増えていく。アジア系移民の増大に脅威を抱いた政府が移民制限法を成立させたのが1901年。選挙や労働の現場で白人優位の制度が確立していく。

1970年代に国際交流が深まるとともに国民の意識が大きく変わり始め、ベトナム戦争後のベトナム系難民を受け入れだして移民政策の転換が叫ばれ出す。そして、白豪主義から多文化主義へと国策の土台を覆すことになる。今や労働者の25%は国外出身者であり、少なくとも片親が国外出身者の子どもは40%に達する。

アイヌ系などの人がいるのにもかかわらず、「単一民族」意識が強い日本はかつて「白豪主義」に浸かっていた豪州と似ている。だが、世界的な国際協調路線に反するような国策を維持できなくなるのは、各国に共通しているはず。様々な文化を認め、尊重するのが歴史の流れである。

移民の受け入れで日本は多様性の国に生まれ変われるか

スウェーデンやドイツでは成長する経済の現場での人手不足から外国人に頼らざるを得なかった。北欧の介護現場に視察に行くと、東欧やアフリカ系、アジア出身者たちが働いている光景に出くわすことが多い。

ドイツではトルコや南東欧からのなし崩しの移民が増え、政府は学校や社会保障政策を充実させることで、実質的な多文化主義を取り入れだした。定住外国人にドイツ語や文化を教える講座の受講を義務付けたり、スポーツなどを通じてドイツ人との交流機会を増やすなど「統合政策」を推進。定住を前提に社会に溶け込んでもらう施策を05年に移民法として結実させ、「移民国家」へと転換した。

「移民国家」に反対していた政党、キリスト教民主同盟(CDU)が05年に左右大連立政権のリーダーとなり、メルケル党首が首相に就任し政策転換を実現させた。経済界からの強い要望に応えたという側面もある。

それまでは、3年の期限を設けて帰国を促すなど中途半端な施策しかなかった。これは日本の現状と似ている。「移民は受け入れない」と主要政党が一致していたこともそっくりだ。

日本の介護業界にも「究極の成長戦略は移民の受け入れ」と明言する経営者がいる(7月28日付日本経済新聞)。サービス付き高齢者住宅(サ高住)の最大手、メッセージの創業者、橋本俊明会長である。

「技能実習制度の拡充は小手先の対応に過ぎない。移民としてきちんと受け入れ処遇する道を開くべきだ。移民を受け入れることで労働力が確保できるだけでなく、日本社会に多様性が生まれる。それはイノベーションにもつながり成長に大きく寄与するのではないだろうか。一方で日本社会も変わるだろう。そういう変化を受け入れる勇気、覚悟を持てるかどうかどうかが問われている」

真にもっともな考えである。

ワールドカップで優勝したドイツチームで外国の出身者が活躍した姿が目に浮かぶ。米国のワールドシリーズでもカリブ海諸国からの選手が目を引く。

最近の欧州諸国やEU議会などの選挙で「移民反対」を唱える右翼政党が躍進しているが、大局的にみると振り子の揺れに過ぎないだろう。歴史の歩みの中では、一時的な反動勢力が現れることはよくあること。一歩後退二歩前進の歩みは変わらないだろう。

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